ショパンコンクール2025の動画配信で見たピアノについて、ベヒシュタイン以外のことなど思いつくまま。
ファツィオリは、大屋根を開ける角度が通常とはわずかに異なっているのが「おや」と思いました。
一般的に大屋根に対して突上棒の角度は、だいたい90°すなわち直角であることがほぼ常識のようになっていますが、それよりもさらに大きく開いているのが目に止まりました。
大屋根を開く角度によって音が変わるというのはあるようで、一時期、突上棒に延長部を継ぎ足す、あるいは突上棒じたいを長いものに取り替えるなどしたピアノが使われているのを見たことはあったけれど、まさかコンクールの舞台で目にするとは思いませんでした。
これは演奏者の希望でないことは明らかだから、メーカーの判断によるものであるのは疑えません。
より良い響きを得るための方策のひとつであるのだろうし、そこは自由なのかもしれないけれど、ピアノという楽器は黒くて大きな図体であるだけに、その姿は少しの加減でグロテスクにもなるし、音も大屋根への反射角度の加減なのか少し生々しさが増すようで、個人的にあまり好きではありません。
楽器に対するコンクール側の規定があるのかどうか、そこまで細かい制限はないのかもしれないし、突上棒の先を継ぎ足したりすればマズいかもしれないけれど、メーカーがはじめから長い突上棒を組み込んでくるなら、よほど極端でない限りお咎めナシなのか、、、。
*
ピアノメーカーの名前は伏せますが、あるピアノははじめあまりに音がきつく、いささか不快に感じました。
それでなくても、最近のピアノはどれもパンパン鳴るし、美しさを損なわないギリギリのところで踏みとどまっている感じがありますが、あきらかにその一線を超えてしまっている印象でした。
すると翌日には早くも修正されて、前日より明らかにしっとりまろやかに、まともになっていることにおどろきつつ、その前に弾かされたコンテスタントがいかにも気の毒に思えました。
*
メーカー別では、スタインウェイがやはり最多であるのは相変わらずですが、今回はカワイを選ぶ人が想像をはるかに上回るほど多く、それだけ高い評価を得ているという印象でした。
ショパンコンクールでは、楽器メーカーの戦いでもあることはもはや多くの知るところで、こちらのバトルも熾烈であろうし、そこへ今回からベヒシュタインまで参入してきたのだから、見ているぶんには面白いけれど、関係者はさぞ大変だろうなぁ!とご苦労もお察しするところです。
カワイの人気には納得するところがあって、むかしはずいぶん野暮天であったのが、近年は見違えるほど磨かれてきて、今回はそこに腰のすわった風格さえ漂っていて、弾く側の信頼感が一気に広がったらしいように感じました。
スタインウェイようなりんりんとした美音ではないけれど、やや重いファツィオリとの、中間といった役どころといったところでしょうか?
今回ヤマハは振るわなかったようでした。
量産モデルにも通じるヤマハサウンドは完成度も高く、それを好む人も少なくない立派なピアノとは思うけれど、ここ最近の流れからすると、必ずしも最新トレンドではなかったのか、近い将来さらに磨きのかかった新たなヤマハが出てくるのだろうと思います。
ピアノメーカーのショパンコンクールも、その攻防は相当おもしろいと思うので、ぜひとも映像作品や書籍にしてほしいしいところ。
F1やル・マンなども、レーサーとマシン、いずれにもそれをめぐる様々なドラマがあるのだから、ピアノもいっそそのようにしていただきたいものです。
コンテスタントにとって、ピアノ選びは人生をかけた勝負のステージで苦楽を共にする相棒を決める場面ですが、このときばかりは立場が代わってコンテスタント達がピアノの審査員になっていることも面白いことだと思います。
楽器メーカーにとっては、2階席中央に陣取る審査員たちより、若い彼らの判断に祈るような気持ちでしょうが、もしや今どきのことだから、それよりももっと前に水面下のヘンな取り決めがあるのか、、、まあそのあたりは疑り出したらキリがありませんが、とりあえず純粋な選択と思っておきたいところです。







