
ショパンコンクールは、毎晩少しだけ断片的に見ています。
今回はBECHSTEINが公式ピアノになったということが珍しく、それを弾く人がいるのかどうか、いるとすればあの会場でどのような音を響かせるのか…というのも関心をもって待ち続けていた面もありました。
しかし一向にそんな気配もないから、しだいに諦め気味になりかけたころ、4日目の10月6日のEvening Sessionの6人目、ついにこれを弾く中国人の青年があらわれ、ノクターンからバラードまで、これらは全部聴きましたが予想以上の好印象で、さらに翌日のMorning Sessionでは、日本/韓国と表記される方が弾かれました。
なによりまず、艶のある上質な美音が印象的で、よく歌うし、どんなに音が激しく折り重なっても濁らず、うるさくもならないのはさすがだと思いました。
もともと澄んだ音に生まれついているらしい強みがあるのか、もっさりしたものを技術者の音作りで華やかに仕上げたのとは、どこか根本が違うようにも感じたり。
低音は床に波紋の広がるようなBECHSTEINらしい朴訥さがあって、そこがショパンにとってふさわしいかという疑問は残るものの、全体としてはひじょうに心地よいもので、いつまでも聴いていたい気持ちにさせられるものがありました。
楽器というのは、まずもってこの点が大事だと思うので、なにか深いところにある大事なものに触れられたような後味が残りました。
ともかく、ショパンコンクール初陣(初期のことは知らないけれど)とは到底思えない堂に入ったものであったのは、さすがは老舗だけのことはあると感心。
…いま、ふいに老舗という言葉を使ったけれど、やはりそれは新興メーカーが容易には成し得ない奥義でもあるのか、伝統が育んだDNAの力がなのかもしれません。
BECHSTEINは歴史的に(ピアノ製造の系譜という点で)PLEYELに繋がるといわれますが、今回の5台のピアノの中では、最もフランスピアノ的な雅味をも内包していたように感じられました。
ただ美しいというだけでなく、そこには目の詰まった繊細な絹のような光沢があり、それでいて軽やかさもあり、ただドイツ的厳格だけではない華やぎも身につけたようで、それが案に相違してショパンをものにしていた印象でした。
最新ピアノが、ピカピカの高級車みたいで、どこかハイテクのドーピングでもしたような気配を漂わせる中、BECHSTEINには楽器ほんらいの姿が垣間見えるようで、緊迫した競技の中でも心に染みわたってくるものがありました。
はたして実際の会場ではどんな響きだったのだろうかと思います。
ステージ上の立ち姿は、ドイツの気の利かないダサいところがあるけれど、奏者を右斜めうしろからの映すアングルでは、ダークブルーの弦枕(ピンとアグラフの間にあるフェルトの帯)が、ボディの黒、フレームの金色、ピンの銀色とあいまって、ハッとするほどシックで美しいことも新鮮でした。
すでに第1次予選は終了し、BECHSTEINを弾いたのは上記2人は、いずれも先に勧めなかったようだから今回はこれで終わりのようですが、ぜひまた頑張って欲しいものです。

※ネット動画より写真をお借りしました。