Model 155

ベーゼンドルファーは、製品ラインナップを長い時間をかけながら順次新しい設計のモデルに切り替えているようで、現在生産モデルは新旧のモデルが入り乱れているというのはいつか書いたような覚えがあります。

そんな中で最大のインペリアルは古いモデルの生き残りのひとつであると同時に、今尚ベーゼンドルファーのフラッグシップとしての存在でもありますが、あとは(マロニエ君の間違いでなければ)Model 225を残すのみで、それ以外は新しい世代のモデルに切り替わってしまっているようです。

新しいシリーズでは、ベーゼンドルファーの大型ピアノで見られた九十数鍵という低音側の鍵盤もなくなり、現在のコンサートグランドであるModel 280では世界基準の88鍵となるなど、より現実的なモデル展開になってきているようです。いまさら88鍵に減らすというのは、従来の同社の主張はなんだったのかとも思いますが、ある専門業者の方の話によると、さしものベーゼンドルファーも新世代はコストの見直しを受けたモデルだとも言われています。

どんなに世界的な老舗ブランドとはいっても、営利を無視することはできないわけで、それは時勢には逆らえないということでしょう。完全な手作り(であることがすべての面で最上であるかどうかは別として)であり、生産台数も少なく、製造番号も「作品番号」であるなど、高い品質と稀少性こそはベーゼンドルファーの特徴であるわけですが、そんなウィーンの名門にさえ合理化の波が寄せてくるというのは、世相の厳しさを思わずにはいられません。

そんな中にあって、つい先月Model 155という小型サイズのグランドが新登場して、これはスタインウェイでいうSと同じ奥行きが155cmという、かなり小型のグランドピアノです。ヤマハでいうとC1の161cmよりもさらに6cm短く、日本人の考えるグランドピアノのスタンダードとも言うべきC3の186cmに較べると、実に31cmも短いモデルということになり、このあたりがいわゆるグランドピアノの最小クラスということになるようです。

この一番小さなクラスが加わったことで、ベーゼンドルファーのグランドは大きさ別に8種ということになり、そのうちすでに6種が新世代のピアノになっているようです。
合理化がつぶやかれるようになっても、お値段のほうは従来のものと遜色なく、この一番小さなModel 155でさえ外装黒塗り艶出しという基本仕様でも840万円という、大変なプライスがつけられていますが、どんな音がするのやらちょっと聴いてみたいところです。

マロニエ君は以前から思っていることですが、メーカーは各モデルで演奏したCDを音によるカタログとして作ったらいいのではないかと思います。
もちろん楽器のコンディションや録音環境、演奏者によっても差が出ると言われそうですが、しかしそれでもすぐに現物に触れられない人にとっては、ひとつの大きな手がかりにはなる筈です。
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